ついの宿りは/佐々宝砂
 
が破裂する
蛆虫たちがはい出す
土の上の新天地で蛆虫たちは
小さな茶色い繭になる
その繭のひとつに
顕微鏡サイズの胞子がとりつき

 音ハナイ。
 擬音語モ擬態語モナイ。
 蠅トナッテ飛ビ立ツハズダッタ
 繭ノナカノ混沌ハ
 白イ菌糸ニ変ワッテユク。
 擬音語モ擬態語モナイ。
 音ハナイ。

胞子をはき出した
寄生キノコは
すっかり腐ってしまった
やがてその栄養分は土に帰り
(植えてもう三十年になるという)
ダイダイの木に吸収されるだろう




***



初出・詩人ギルド/このゆびとまれ/テーマ掲示板
  テーマ【冬虫夏草】


この詩に登場するイキモノたち

 蝶→クロアゲハ。幼虫は柑橘類の葉を食べる。一齢幼虫は薄い青緑。
 蠅→ブランコヤドリバエ。蝶や蛾の幼虫に寄生。
 茸→マユダマヤドリバエタケ。ヤドリバエの繭に寄生する冬虫夏草。
 ダイダイ→ほんとにうちの玄関先にある。
 人その1→ダイダイを植えた人。私の夫。
 人その2→この詩を書いた人。私。
 




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