「 湿った風。 」/PULL.
湿った風が頬を撫でる。
低層とはいえ、
屋上に吹く風は、
やはり地上より少し強い。
初夏の太陽のまなざしを受け。
はたはたと、
風に揺らめく白いシーツは、
恥ずかしげに少し俯いている。
ここから見える風景は、
どこか他と違って見える。
なぜなのかは分からないけれど。
こうしてここに立っていると、
地上の底にいるような、
そんな気分になる。
湿った風が髪を擦る。
きしきしと、
髪を擦り、
耳元で呟く。
「おまえのせいだ。」
涙は雨のように落ちて、
コンクリートの隙間の雑草に抱きしめられた。
風が止んだ。
見上げた空の向こう。
マンタが大きく口を開け、
二つの太陽を呑み込んでいた。
彼女は、もういない。
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