水緑/木立 悟
 




朝に刈られた草は低く
鉄路から来る風は遅く
火花の熱は溝へと至り
冷たく通りすぎてゆく


触れることのできない飛沫のように
緑は道から放たれてゆく
遠い遠いものばかりが
痛みを知らない色や光や
幼いいつわりのようにかがやいている


土に立つものすべてをふちどり
緑はにじみ またたいている
ほどきほどかれ またもどり
空でも地でもない場所に
たくさんの粒のあつまりの
雲より巨きな花を咲かせる


見えすぎて閉じられた目の奥で
音は静かにひらかれてゆく
記憶ではない発芽の重なり
葉に降りつづける葉のかたち
こわれにくい滴に満ちた
ひろいふところに抱かれるかたち


濡れた朝のはじまりに
たくさんの生が動きだしても
遠く小さな音たちは
何よりも強く見えている
空の晴れ間をすり抜けて
近づく雨の仕草は伝わり
川と同じかたちの雨に
海へ去る雨に微笑んでいる







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