歌舞伎町のプロントで/チアーヌ
歌舞伎町のプロントで
わたしは人を待っていた
雨が降っていた
隣に一人の男が座っていた
男は真っ青な顔をして
口をつぐんでいた
嫌だなあこいつ吐くんじゃないか
ふとそう思った
湿り気を帯びた店内で
わたしはジントニックを飲んでいた
ああお腹が空いたな
ピザでも頼もうかな
ところで今何時なんだろう
隣の男は黙ったまま
携帯をテーブルの上に置き
何か飛び出してきそうな口を
つぐんでいた
お願い吐くならよそで吐いてちょうだい
わたしは男が吐くであろう吐寫物を想像した
黄色と白が混ざったようなベースの中に
さっき食べたから揚げも混じっているんじゃないだろうか
わたしはこみ上げてくるものを必死に両手で押さえながら
テーブルに突っ伏した
ジントニックはもう何杯目か忘れてしまったし
一体誰を待っていたのか思い出せなかった
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