きょーふのこんげん/佐々宝砂
 

思い起こせば私がまだ幼稚園児のころ。電車に乗っていてトンネルに出くわすと、私の母は必ずこの「メビウスという名の地下鉄」の話をした。もちろん、メビウスの輪がどんなものかは家庭であらかじめ教えこまれていた。「ねえ○○ちゃん。とんねるがめびうすのわになっていて、でぐちといりぐちがくっついて、でられなくなったら、どうする〜?」いたいけな私がどれほど怖がったか想像してください。

要するに私のかーちゃんが悪いんじゃねーかーっ!!! とおたけびをあげつつ、私は、私の母がいちばん怖い小説として「メビウスという名の地下鉄」の名をあげたことをおぼえている。かーちゃん自ら怖かったらしいのである。私の恐怖は母の教育(?)に由来するとして、母自身の恐怖はどこからきたのだろう。母は知っているだろうか。




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