柔らかい殻/いとう
揚子江の上流に見慣れない生き物がいて
現地の人は成人の儀式にそれを食べる
雨の降る夜はいつも
腹の中で卵が孵って
鼻の穴から糸が
するすると
巻き付いて
柔らかな
殻になる
殻の中は暖かいらしく
雨の降る夜はいつも
まるくなって
うずくまって
夫婦は抱き合って眠る
ひとつの殻に入るので
婚姻を結ぶことを現地では
「同殻」と呼んでいる
幼虫は糞と一緒に出るので
便所はなく
揚子江に垂れ流す
殻は湯で煮て
繊維をほぐして
織物に加工され
市場に出荷される
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