八月の海鳴り/嘉野千尋
 


八月の月で海鳴り
それでも僕らは響く波音を知っていた



  僕は今、紺碧の海(マーレ)を閉じ込めた窓辺から
  君に宛ててこの手紙を書いている


  地球(ホーム)ではちょうど西の海に日が沈んで
  八月の夜が東の空から始まろうとしている
  茜と、藍
  遷り変わる季節の姿を見つめながら
  天頂にさしかかる月の横顔を
  宵の浜辺から観測するのが僕の仕事だ


  月の浜辺で
  僕らは遠い波音を聞いていたね
  母星への憧れを胸に
  歌うことのない海を
  飽きることなくずっと眺めて
  それでも僕らは響く波音を知
[次のページ]
戻る   Point(16)