八月の海鳴り/嘉野千尋
八月の月で海鳴り
それでも僕らは響く波音を知っていた
僕は今、紺碧の海(マーレ)を閉じ込めた窓辺から
君に宛ててこの手紙を書いている
地球(ホーム)ではちょうど西の海に日が沈んで
八月の夜が東の空から始まろうとしている
茜と、藍
遷り変わる季節の姿を見つめながら
天頂にさしかかる月の横顔を
宵の浜辺から観測するのが僕の仕事だ
月の浜辺で
僕らは遠い波音を聞いていたね
母星への憧れを胸に
歌うことのない海を
飽きることなくずっと眺めて
それでも僕らは響く波音を知
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