公園の昼間にて/黒田康之
藤の実が剣のようだ
ものすごい湿気とものすごい気温の中
藤棚の下で目を閉じて
何も見ない
藤の実が剣のようだ
おそらく
噴水の前を通り過ぎる自転車のベルも
風鈴のようだが
でもそれはもっと鋭い
何もいないこの真昼間に
何を排除しようというのか
藤の実が剣のようだ
公園のこんもりとした緑の向こうに
喧騒の壁として立っているビル群を見ない
遠くで犬の声がする
学校をサボった少年と少女が愛し合いながら通り過ぎるのを
麗しいとも
嘆かわしいとも思えずにいる
藤の実が剣のようだ
ざわざわと
頭上から
風の音がする
藤の実が剣のようだ
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