旅を終える朝に/服部 剛
園から帰ったら、また遊ぼうね」
(おじちゃん、今日帰るんだよ)
という言葉をぐっと飲み込み
「また遊ぼうね」
という言葉をそのままに無垢な瞳はすいこんで
くるりと背中を向けて
キティーちゃんと手をつないだまま居間へと走った
階段を下りてきて
「行くよ」
と言うママの背中についてゆき
窓の外の車の助手席から僕を見つけて
小さい手をふると
動き出した車は
田んぼと田んぼに挟まれた一本道の向こうに走り去った
朝食を終えた僕は
荷物をまとめようと上った階段から
がらん とした居間を見下ろすと
キティーちゃんは少し退屈そうに
消されたテレビ画面の前に座り
黒い瞳に小さい光を浮かべていた
戻る 編 削 Point(8)