団欒/ならぢゅん(矮猫亭)
たものはぬぐえるはずがない。チャンネルを替えても無駄だ。これでは時間がわからない。いつもの電車に乗り損ねると朝の会議に遅れてしまう。食事を途中で切り上げ着替えを始める。ネクタイをしめながらテレビに目をくれると赤い画面がぐぐいと盛り上がってくる。キシシ、キシシシ。なにか黒いものが内側から押しつけられているのだ。キシシ、キシシシ。しかし、そんなものに気を取られている暇はない。鞄をつかみ玄関に向かう。キシシ、キシシシ。いってくるぞと振りかえる。すると、きゃりん、ガラスが砕け赤黒く髪を濡らした頭が勢いよく飛び込んできた。妻と子の歓声に迎えられ頭は食卓の真中に着地する。ああもう仕事どころではない。日曜日にもありえなかった盛大な朝の団欒が始まるのだ。いよいよ始まるのだ。
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