泳げない朝に/霜天
 
六月、朝は煙の中から浮上していく
昨日積み残してきたものは
もう何処にもないかもしれないと
溜まってしまった風の中に体を傾けて
もう一度目を閉じていく
泳げない朝に見る夢は
煙った街から突き出たビルの
浮かんでしまった寂しさ
目が覚めるまで僕らは漂流する
非常階段の青い光で世界を照らしながら


昨日あれだけ合わせた時計が
今朝にはもう遅れだしている
追いつけない足元に
今日はもう休もうかと
草原に椅子を取り出して、深く深く座る
泳げない朝に届いたものは
懐かしい人の名前の葉書
裏には線が一本だけで
なぞってみても、もう遠くて
きっと差出人にも分からない


泳げない朝には
泳げないままで
覚めないままの夢の名残を
ゆっくりとゆっくりと、噛み締める
つかんだ吊革は、いつもより中途半端で
右へ左へ大きく揺れながら
なんでもない一日へ挑んでいく


煙った街、浮上する朝
泳げない空の向こう側
ため息はここで呑み込んで
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