夏休み/たもつ
夏休み
街から人はいなくなった
窓という窓
木陰という木陰
ベンチというベンチ
そのいたるところから
少しの匂いと
体温を残して
静寂、というには
まだわずかばかりの音がある
例えば幹線道路を南へと走る
忘れ物みたいなバス
そのアスファルトを踏む音
誰かの眼差し
のような夏の陽に紛れて
僕らは乗客の中にいた
時おり街角に棒立つ人がたの影
けれど次の瞬間には
もはや記憶ですらない
バスの中をバスが通過していく
もちろんそれはバスではない
夏の間しか生きられない小さな虫の飛行
剥き出しの命に
乗客はみな目を瞑る
その姿は祈りにも似てい
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