遠い猫/チアーヌ
 
は、あの家の」
わたしがそう言うと、猫はそっとベッドから降りた。そして、ドアをカリカリと引っ掻いた。
「どこへ行くの?」
わたしが寝室のドアを開けると、猫は玄関のほうへ行き、玄関のドアをカリカリと引っ掻いた。
「どうして?」
わたしは悲しくなった。
「どこへ行くのよ?」
猫はわたしを見つめている。そして小さな声で、にゃーん、と鳴いた。
わたしはドアを開けると、猫はするりと外へ出た。そしてマンションの外廊下をすべるように歩いていった。
「チャぺ」
わたしは思い出したその名前を呼んだ。すると、猫は一度だけ振り向いた。そして、すぐにまた歩き出して、暗闇の中へ消えて行った。
わたしはその場にしゃがみこんでしばらく泣いた。


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