夜の音/木立 悟
 


言葉になる前の言葉から
鳥は滴にしたたり降りる
空になり木になり土になり
重なる光にひらきひらかれ
目をふせ ひろく
ひとつにたたずむ


夜の雨音の冷たさが
肩から腕へと流れ落ちる
窓を閉じてもふるえは止まない
めぐりめぐる声も止まない


空を踏みしめ歩む音
朝を銀に置き去る音
遠く滴をもたらす音
見えない光の源の音


誰にも代弁することのできない
ひとりの赤子のたましいがあり
羽から羽へとわたされてゆく
生まれたときから器のなかで
ひとり静かに幾日かを苦しみ
息を引きとるときにはじめて
母親の手に触れた赤子
何も知らずに帰った赤
[次のページ]
戻る   Point(4)