一瞬の奇妙な瞬き/梼瀬チカ
一瞬の奇妙な眩き
檮瀬チカ
朝 ベッドを抜け出すと
鏡台の前に腰掛ける
すっかりぼやけていた顔の輪郭と
浮腫んだ眼の上の眉毛をピクリと動かし
ヘアブラシに手を伸ばす時の
一瞬の奇妙な眩き
背後の明かりはあまりに明るく
窓の外はまだほの暗い
雀の囀りを聴きながら
機械的に長い髪にブラシをかけていく
ぼやけていた輪郭は徐々に
入念に手入れされた形を戻してゆく
鏡の中の女が言う
「私は完璧かしら?」
繰り返される女の女という女の
恐ろしくも愚かなる疑問に
しっかりとは答えられないまま
外へ出て 犬の散歩に出る
既に家々の明かりはついていて
コートの襟を立てて歩くと
背後からカツカツというヒールの音
追い越し際に見た早い出勤に急ぐ顔は
冷たい顔色をしていて
私はせわしなく匂いを嗅ぐ犬に眼をやる
しっかりと化粧を施し出勤時の整えられた姿は鏡台の前で
一瞬の奇妙な眩きをしたか?
陽が明るんで昇りはじめ
眩しげに朝日を見ると
モズが鋭く鳴いて
私は眼を眩しく眩いた
青木はるみ同題詩に触発されて
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