そのスピードで/ベンジャミン
 
街が夕焼けに染まるころ

通勤快速を降りれば足早になる
車内の熱気にゆであがってしまった
君はきっと
夕方の空気が好きに違いない

商店街を駆け抜ける自転車に
危うくひかれそうになっても
崩れたバランスを立て直すのには慣れている
疲れていても
何かスイッチのようなものがあって
それは誰に押されるでもなく
自分で押すでもなく
どこにあるかもわからないのに
脚が勝手に動くのだ

家路へと続く道は
電信柱が等間隔に並んでいて
たとえ数えていなくても
そばにくれば当たり前のようにわかる
お隣の犬は
まだ晩御飯前らしい声で啼いている
それを横目でくすくすと笑いながら
玄関をあけるとき

ただいまとおかえりが交差して
次の言葉を言おうとする
君はまるで
走って帰ってきたみたいに

自分の息がはずんでいることに気づく
       
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