五十三回目の夏に/狸亭
 
夏の空には白い雲がながれ
暗い緑色の湖にうつる木々
幼い想いを秘めた草いきれ
揺れて動く昆虫の青い狂気

母と若い二人の姉とぼくを
残して夏の日父親は死んだ
集まった縁者は皆知らん顔
ぼくの田園生活は終わった

上京した上野駅の酷い混雑
見知らぬ土地の人波の中で
立ち尽しているぼくは憂鬱
夢中で多くの街を横切って

やっと捜しだした叔父の家
女主人の冷い仕打ちに怒り
飛び出して淋しく吹く草笛
くすんだ赤提灯点る裏通り

見知らぬ男から親切な誘い
ぼくはついほろり涙を流す
男の部屋で教えられた性愛
日毎夜毎回り狂う回転椅子

肥った男の職業は大学教授
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