狗の賛歌/春日ススム
 
(老兵はロッキングチェアの中で思いを巡らす)

戦ってたあの頃が終わっちまって
もう何年経つんだろうな
街にはきっと銃弾の跡なんざ残っちゃいない
乾いた血の黒も
硝煙のにおいもないだろう

(老兵はテーブルの上のコーラを見る)

何人殺したっけな
何人死んだっけな
歓喜も憎悪も随分教えこまれたけど
結局忘れちまったなあ

(老兵はコーラを取り上げて口に含む)

おれはこのコーラみたいなもんだ
すっかり温くなっちまって
昔の冷たさは見る影もねえし
すっかり気が抜けちまって
昔の辛さは何処へやら、だ
・・・・・・甘ったるくなったもんだぜ

(老兵を呼ぶ声がする)

トムの坊主め
またなんかやらかしやがったな

(老兵は日の光にコーラを透かす)

ふん
だがまあ・・・・・・見れねえ色でもねえな

(老兵は大儀そうに立ち上がって、孫の元へ向かう)
(冷たいコーラは何処にもない)

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