吉岡実(奇怪な絵画)/岡部淳太郎
怪なイメージであると言うしかないが、次第に吉岡実はこうした作風から離れてゆく。現に「桃」が収められた『静かな家』にはけっして絵画的とは言えない詩も含まれている。ただ奇怪な絵画を描くだけではやがて行きづまると、詩人自身が考えたのかもしれない。その後の『神秘的な時代の詩』『サフラン摘み』『薬玉』『ムーンドロップ』といった後期の詩集ではまったく作風が変っている。この時期の吉岡実も面白いのだが、ここではまだ語ることが出来ない。最後に、吉岡実が残した奇怪な絵画の中でも、僕が最も好きな一篇を全文引用しよう。
{引用=その男はまずほそいくびから料理衣を垂らす
その男には意志がないように過去もない
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