棘と雛(残雪)/木立 悟
伝い
歩むもののかかとを濡らす
歩むものの
かかとだけを濡らす
鉱はふいに雛たちの手を取り
遠去かる道の星雲を指す
血は薄れ血は乾き 棘の手は離れ
灯は木々に燃えうつり
枯れ野の境に消えてゆく
夜明け前の声は明るく
原の闇を梳いている
道は冷えていけばいくほど
川と同じ光にさざめく
はぐれては夜を照らすたましい
ひとりだけ銀へ向かうたましい
鉱に翼を与えられ
はばたきはもはや血を見ずに飛び
渦は曇のなかのひとつに遠のく
ひとりの雛だけが棘の手を取り
血を流し道を歩いてゆく
新たな標と矢印を描き
目に見えない残雪のつらなりを
かかとだけが知る冷たさの道を
歩いてゆく
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