棘と雛(残雪)/木立 悟
 



石の階段
午後の黄緑
低い風が乱す水面
数える間もなく
ひとつになる曇
水の上から 動かない曇


空の水に落ちる光
高く高く沈み遠のき
にじむ羽のあつまりの
まわりつづける輪のように去る


棘のある手を握りつづけ
光に近い渦のなかを
ゆっくり揺れる雛たちの列
血の矢印が流れ去っても
見え隠れする血の標へと
少しずつ少しずつ雛たちは歩む
かすかな残雪の音をゆく


雪の轍は水紋のように
雪の足跡は魚のように
夜のはじまりの蒼に震え
高さも低さも上下もなく
まぶたの狭間にあふれてゆく


蒼のなかに点る灯は
枝や葉や花を伝い
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