朝廷はもうないけれど/tonpekep
 
沃素であって
ぼくには関係のないことだと
独り言のように呟いている

朝廷はもうないけれど

7月の梅田発―河原町行の
ぶどう快速特急は
風の中でとけるような感じで走ってゆく
夏の京は甘酸っぱい

桂川の鉄橋を越えれば
朝廷はもうないけれど
千年の都は
ところどころ空間に
虫食いの後があって

ぼくはときどき
そこに紛れ込む
王朝の恋人たちの
愛し合う
衣擦れの音を聞かなければならない

ただ
京都は豆腐が美味しくて
琥珀の中に見つけた蚊の先祖の
化石のような
四条烏丸駅
で下車すれば
夏の御所へ向かう方向に
朝廷はもうないけれど
梅の花は営業している

南無観世音の幟のはためく
六角堂の下の
梅の花

かつて豆腐が
美味しくなかったことはなく
京都はいつも
豆腐が美味しいと決まっている
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