朝廷はもうないけれど/tonpekep
 
ぶどう電車が
大山崎の天王山を越えると
京都盆地は南西から迎える

ふり零れる時間の光の中で
21世紀の京都に
朝廷はもうないけれど

いつの間にか
ぼくの車両は
烏帽子を被った
或いは十二単の貴人たちが座っている

車輪とレールの透き間から零れる
初夏のガタンゴトン

ガタンゴトンの響きの中で
ときどき万葉集が紛れ込んだり
ガタンゴトンの震動に添って
古今和歌集の文字が揺れていたりする

ぼくは考古学者でも
何でもないので
ただ座席に座って
背筋を伸ばし
窓の京を見ている

東寺の五重塔の
西日に蒸された瓦に
滴るのは千年の
時間の沃素
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