赤い魚の話/佐々宝砂
 
ここで赤い魚の話をしてはいけません

最初の貼り紙は公民館のドアに貼られた
誰が貼ったのか
誰も知らなかった

次の貼り紙はあちこちのスーパーで見られた
誰が貼ったのか
店員も店長も知らなかったが
貼り紙はどうしても剥がれなかった

やがて赤い魚の秘密がささやかれはじめ

貼り紙はほんの少し訂正されて
役場の壁に貼られ
真面目そうな公務員が
私が貼りましたと言った
常識でしょうが大事なことですから

やがて赤い魚が生活を侵食しはじめ

貼り紙はかなり訂正されて
法律として定められた

それでも
ひとは
ごくたまに
恋人や連れ合いとふたりきりでいるときなどに
何かわからないものに怯えながら
赤い魚の話をする
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