目覚めよと呼ぶ声の聞こえ/佐々宝砂
もうおしまい。
わたしの裏庭にはチガヤがない。
わたしの壁は緑ではない。
わたしの夫は健康的に釣に出かけ、
わたしは家で本を読み、
わたしはおもての庭に忍冬を植え、
家の壁は薄いベージュに塗られている。
夜半に目覚めるたび、
視界いちめんに黄色と黒の市松模様、
アール・デコ調のそれが、
かあさんの言った波とは思えない。
思えないけど、
もしかしたらそうかもしれない。
風に耳を澄ませば、
かすかに海鳴り、
あれは、
あれはほんとうにそうなのかもしれない、
でも何度目かわからない。
目覚めよと呼ぶ声の聞こえるはずもなく、
わたしはここにない目を閉じる。
キャロル・エムシュウィラーへのオマージュ
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