ざれごと/緋史
馬鹿を言うな。
馬鹿を言うな。
その言葉が聞きたくて、
今日も俺はありったけの馬鹿馬鹿しい話を用意して奴のところに向かう。
おたまじゃくしが金魚になった話、
隣のじいさんに新しい歯が生えてきた話、
俺の彼女が昔少年だった頃の話。
どれもこれも有り得ない、聞くに値しない馬鹿馬鹿しい話。
御伽噺にもならない陳腐な空想物語。
それでもあいつは真面目な顔で
一言一句聞き逃すまいと耳を傾けて、
そして聞き終わった後に言うんだ。
「馬鹿を言うな」
それでも懲りずにやってくる俺の話を、
奴も懲りずに真面目に聞いてまた一言。
「馬鹿を言うな」
馬鹿を言うな。
その一言のために、俺は今日も想像力フル回転で。
あんたにそう言わせるために
俺の視界じゃ猫が空を飛び 犬が二本足歩行で横断歩道を信号無視だ。
冷たい瞳の真面目なお人好しに会うために
俺は今日もけなげに図書館通い。
そのうち大口開けて馬鹿笑いさせてやる
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