水、おしよせる/かなりや
 
波がたっているからといって海ではない

しずかな水 おしよせ おしよせ
塩のない水 おしよせ おしよせ
こちらにやってくるときは なにか言いたそうなのに
いざ、到着すると そんな素振りはみじんも見せず
さささささ
また帰ってしまう

遠くに山が見える
近くに山が見える
隣のあなたは見えない

しずかな水 おしよせ おしよせ
塩のない水 おしよせ おしよせ

わたし 退いていく水はいらない
声は聞こえる気がするけれど
隣のあなたは見えない

ゆるやかで まろやかな 水音がする
(ゆるぽちゃとろん これを全部シェイカーで混ぜたような、夢の音)
退いていく水はいらないと言っていたのに
あなたが隣から抜け出して
退いていく水を抱いているところだった

あなたはうそつきだね
でもやっと
あなたが見えました

遠くに山が見える
近くに山が見える
遠くにあなたが見える
遠すぎて、見えなくなったところにあなたが見える

水はいつでもおしよせる。海でもないのに



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