幻の人柱 /服部 剛
テレビの中の日本列島は低気圧に覆われて
天気予報によれば明日は「曇りのち雨」
明日も見えない荷物を背負い
傘を手に門を出て行く人々の上で
無表情な曇り空には
ぼんやりとしたかみさまの顔が浮かんでいる
長い間探していたものは何だったのか・・・?
若き日に握りしめていた拳はいつの間にか緩(ゆる)んで
濡れた線路の上を歩んでいるうちに忘れてしまった
過ぎ去った夜の受話器越しに確認しあった愛の言葉は
雨の降る午後の霞の向こうに君の背中が消えたあの日から
遠い距離を隔てて立ち尽くしている僕との間に
浮かんでいる赤いハートは歪(いびつ)にへこんだまま
今も鼓動を続
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