贅澤品/佐々宝砂
勇猛果敢な、奮立つやうな、そんな詩を書けと言はれた。
だから男は詩を書いた。
勇猛果敢な、奮立つやうな、そんな詩を書いた。
二十年前だつたら書かなかつたやうな詩を書いた。
怠惰に醉ふてスラムプだと言ひデカダンを名乘り、
何も書かぬ儘泥に墮ちて死ぬる筈だつたのだが。
其れが男の理想だつたのだが。
原稿料を貰つても、男は屡々(しばしば)闇米を買損ねた。
不器用で馬鹿正直で世事に疎かつたので。
其れでも大層な煙草好きだつたので、
配給だけでは足りぬ煙草を、
どうにかして何時も手に入れてゐた。
ヤミで買つた煙草から昔の馨が立上る。
スラムプもデカダンも
最早手の屆かぬ贅澤品だと男は思ふ。
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