消灯時間/蝶のかたちに展がる雫/本木はじめ
青き百合を水に葬る手のひらのかたちのように流れゆく指
横隔膜の失いたる平衡感覚で剣のうへももはや荒野
牛乳を一気飲みする冷たさにすべての蝶の真白く映えり
目を閉じて遠き木星おもうときどこかで破裂しそうなガス管
何本も折り重なって眠りゆく花火もいちど燃やす夏の夜
爬虫類こわがるきみの胸元に永久に実りつづけてる果実
風のない午後に断崖絶壁の際と抱き合う海を見ている
十代の頃に数えし夢の数あの夏雲のごとく消えゆく
極彩の神話ひろがるキャンバスのアダムの喉を展きゆくとき
肉声の届かぬ山の枯野にて暗緑色に溶けゆく帽子
残像に溶けゆく指輪の銀色に装飾されゆく思い出は作為
地下水面射し込むひかりに舞い上がり蝶のかたちにひろがる雫
ガラス片握り潰した手のひらにひろがる薔薇も褪せゆく廃園
指とゆびの合間を風がすりぬける観覧車からわれら飛ぶとき
消灯の時間となりて鳥たちは夜空に星のかたちで眠る
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