蚊/黒田康之
僕の血を吸ったばかりの
大きな腹をした蚊が
ベープマットの上を飛び過ぎて
週末に掃除しただけの木の床に落ちる
音はなく
羽ばたきもせず
すとりと落下した
自由落下のそのまんま
でも
その張り切った腹は割けることもなかった
もし生きていたならその腹の中の僕の血は
おまえの子どもを育てたのだろう
けれどおまえはこの床の上で絶命する
執念としておまえの腹は割けないのかもしれないな
そう思って指の腹でおまえを押しつぶすと
申し訳のように小さな小さな血溜まりができ
そうしておまえの生涯は終わった
お前の羽音が
今晩僕の耳元で鳴り止まないとしても
僕は僕の血で濡れた指で
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