ノート(たたずむ瞳)/木立 悟
軋みを撒いては走り去る鉄
遠い悲鳴のように過ぎてゆく
またひとつ助けられない小さなものが
手の甲に重なり 増えてゆく
開こうともせずに開く瞳が
そばにたたずむふたつの瞳に
何も見ていない色を映す
道に面した窓があいている
古いピアノが置かれた部屋から
雨の匂いに散らかる部屋へ
音の指はのばされてゆく
生け垣の内側で
名前を呼ぶ人の声がして
枝から屋根へと高くなり
やがて屋根から空へと去っていき
数羽の鳥の声だったのだと知る
机の上に置かれた心
午後の光に揺れ動く
畳に合わない色の壁に
鏡がひとつかけられていて
鍵盤の上で重なる指を
椅子の下で重なる脚を
何も見ていない色に映す
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