PRESS ENTER■/佐々宝砂
一日に一回
空は夕焼けに染まる。
晴れていたなら、だけど。もちろん。
夕暮れてゆく世界は私の手の中にあって
私は一杯のコーヒーを飲み干すみたいに
簡単に
それを飲み干す。
でも確かな違和が天啓として
空に描かれてゆく、
飛行機雲が描くその文字は、
今のところノンときっぱり。
あれはあなたからの伝言。
なんと高度に象徴的な。
私は電車に乗る、
電車は見知らぬ郊外を走ってゆく。
いいえ、見知らぬ、というのは嘘。
私の記憶に入力されていた風景には違いない。
斜めにさす日ざしが
にっこりほほえむトマト顔の看板を照らしている。
茶畑だらけの山並みが流れて
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