ただいま/ベンジャミン
 
あの日
僕はふらっと出かけたそうだ

何処にも行けない身体で
何処に行けるはずもないのに
何処かへ出かけてしまったそうだ

(言葉を忘れるということは
 そんな遠い旅に出ることに似ている)

いくら呼びかけても
ああ うう としか言わない
僕を探すことは難しかったろう
突然ふらりと立ち上がり
そばにあるものにぶつかってしまっても
それを動かしたのは僕ではないのだから

だって

僕はそこにずっと居て
僕はそこにずっと居るだけだったのだから





ある夜
僕はきゅうに笑い出したそうだ

そのことは何となく覚えていて
そのことは忘れない
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