立入禁止/有邑空玖
ちょうど何処まで行っても追いつけない陽炎のように
安寧の地はますます遠ざかるだけだ。
コノママデハイケナイ
でもあたしはまだ貴方を憶えて居る。
買い物籠の中にはチョコレート
とコーラ
とアスピリン
を飲み下すための冷水。
下ろしたての赤いサンダルが少し痛い。
冷房の効き過ぎたコンビニから外に出ると
夏が甦って来る。
夏だったから、
貴方が居なくなったのがとても暑い夏だったから、
未だに熱を持ち続けて居る、あたしのてのひら。
不確かな巻き貝の記憶が
何度でも貴方の声を繰り返す。
繰り返して
もう何も考えられないように
繰り返して
全部忘れて。
国道は永遠みたいに続く。
あたしは赤いサンダルでゆっくりと歩く。
コノママデハイケナイ
でもあたしはまだ貴方を憶えて居る。
巻き貝が繰り返すから、夏を
誰も立ち入れない
夏を。
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