そこから溶けていくあなたの/霜天
 
昨日までは夢だと言う
あなたは夏に向けて静かに融解していく
水をたっぷりと含んだ世界で
それはとても自然なことのように


梅雨の中にいる
紫陽花が咲いた


午後にゆっくりと傾斜していく部屋で
隙間のない雨の中に手を差し出している
そのまま息を止めれば溺れることも出来るかもしれない
何も変わらない日常の部屋で
あなたはまた少し、溶ける


紫陽花は遠くを
待ち焦がれる青


傘を持つ手の向こう側で
あなたは確かに何かをつかんだ
腕時計を忘れた手のひらで
しきりに時間を気にする
待つことを忘れて傘の下から潜り込んで
また少し溶けるあなたを、見る

湿り気の多い風が吹く
そこから溶けていくあなたの繋がる手の
その先
ふわりと揺れる景色を見ながら
夏の日の空の青さを夢のことのように
語る

あなたの繋がる手の、先
道案内を探す視線で
水にくるまれたこの世界を
私はただ、泳ぐ
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