贋者アリスの洞窟の冒険/佐々宝砂
荒野には屍などない。屍は豊饒の証である。荒野は小気味よいほどの空白であり、そこにはふくふくした糞便も滋養豊かな腐肉もない。目立つものといったら枯れ木だけだが、その枯れ木ときたら、湿っぽいので燃料にもならず、中がうつろなので材木にも使えない。
それでも足元にはいじけた草が生えている。白い小さな花が咲いている。それはハコベという花なのだとあたしはおもう。空っぽの荒野に生えた愛らしいちいさな花。あたしはハコベをうっとり眺めたあとでそれを根こそぎ抜いてしまう。ハコベはなかなかおいしい草なのだ。
誰かいないのお!と叫んでみる。
緑色のこびとはひとり荒野に立ちすくむ。あかい帽子。灰色の
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