月曜日の幽霊/岡部淳太郎
になって現われた
それは前夜と同じあの声を発していた
そして男と女の双方に また声を聴いた幼い子供に
よく似た姿をしていた
#7
井戸からの声も
ずぶ濡れの幽霊も
まったく知ることなく 女は井戸に通いつづけた
やがて女は年老いて
かつて男に愛されたその美しさも皺の中に消えて
それでも女は男への手紙を書きつづけ
夜毎それを井戸の中に落としつづけ
その間も「月」のものは落ちつづけ
決して腹をふくらませることはなく
千年と 百年ののち
女は死んだ
その遺体は男のもとにたどりつけるよう
女が書いた無数の手紙と同じく
井戸の中に落とされた
通信完了。
井戸からふたたびずぶ濡れの幽霊が現われて
頭上の 「月」に向かって何事かをつぶやいた
何故と問う暇もなく
幽霊は
夜の
人々が呼吸する空気に溶けて消えた
私は月曜日に生まれた
残る思いは
遠い海の底にある
個人サイト「21世紀のモノクローム」より
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