故郷/櫟 伽耶
また夢だった。
服を汚せば怒られる。怪我をしても怒られる。
冠を作れるほどの花畑はどこにもなく、濁った空には星が一つ二つ。
どこか遠くへ行きたかった。
その願いは叶えられた。
私はその場所を捨てた。
今、私は違う土地で暮らしている。
ここも夢に見た場所とは違うけれど、それでもずっとマシだろう。
ここでは道端に名も知らない花があり、澄んだ空がよく見える。
道路は狭いけれど綺麗に掃除され、公園は美しく整備されている。
たかがゴミを捨てに行くだけでも、すれ違う何人もの人に笑顔で挨拶をされる。
ゆっくりとした時間が流れてる。
だけど、何故だろう。
「帰りたい」と思うのは。
あの住みにくい薄汚れた土地を懐かしく思うのは。
思い出すほどに涙が出るのは。
私の故郷は、あの場所以外には有り得なかったのだ。
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