故郷/櫟 伽耶
私は自分の生まれた場所の景色を知らない。
私の育った街は、排気ガスと地下鉄の匂いに溢れた、お世辞にも綺麗とは言えないような所だった。
道路には捨てられたタバコの吸い殻とエロ本、公園には割れたビール瓶の破片、それらを見ない振りして通り過ぎていくのが当たり前の生活。
大人達はせわしなく歩いていく。
道路脇にそっと供えられた花にすら気付かない。
子供たちはその中で、まるでポツンと世界に取り残されたようだった。
何をしても大人は見ない、聞かない、知ろうともしない。
良い子の振りして大人達を騙すのはとても簡単だった。
彼らは考えることすら面倒なのだ。
ただ忙しく生き急ぐだけの。
無限の時
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