水無月セピア/野月歩
 



猫の目のなかに言葉をさがしてた世界がわたしの部屋だけの夜


はてしなく優しいきみが眠るときおとぎ話の幕が開いて


鍵穴を探す深夜の部屋の中小さな鍵の彷徨う行進曲(マーチ)


首すぢに赤い花びら咲き乱れ着物の裾にまとう残り香


のどけきひ睡蓮の紅(あか)あざやかに描くあなたの笑顔と共に


高音部うしなう少年少女からしゃぼんは枯れるセピアの翳り


くゆらせた香のけむりの終わるとき涸れる真夏の霧の湖


墨汁の遠い山影に息を吸い吐き出すあなたの白いためいき


しんみりと泉の上に湧き出づる雲の模様をかきまぜている


紫陽花の影の部分を見落として明るい花よとわらう水無月







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