二度童子の魂を運ぶ白鳥の話 一.夕暮れに灯る古い物語/板谷みきょう
山あいに、日の暮れるのがひどく早い村がありました。
村のはずれに、樫の木の杖をついたおばあさんが、
一人で暮らしておりました。
おばあさんの家は、
村の人たちが誰も通らなくなった古い街道のそばにあり、
ちょうどお地蔵さんの赤い前掛けが、
夕日に透けて見えるような静かな場所でした。
かつてこの村の「語り部」であったおばあさんの言葉は、
暗い夜道を照らす小さな街灯のように、
人々の心を温めてきたものでした。
けれども、時代というものは、
古い記憶を次々と書き換えてゆくものです。
おばあさんの頭の中の糸巻きは、いつの間にかほどけ、
昨日と今日の区別もつかなくなりました。
道に迷い、自分の名前さえ忘れてしまうおばあさんを、
村の人たちは「ニドワラシ」と呼びました。
「また子供の魂に還ったんだよ。長生きをしたご褒美に、
神様が荷物を降ろしてくださったんだ」
人々のやわらかな手に導かれ、
遠い空を見上げるおばあさんの瞳には、
静かな光が宿っていました。
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