いた。/後期
濡れた布が顔に触れると、
母親の腹の中みたいな匂いがする。
生ぬるくて、逃げ場がない。
そのまま息を吸う。
拒めばいいのに、従順だ。
俺は普通だ。
自分でも驚くほど。
決まった時間に起き、決まった道を歩き、決まった顔で挨拶をする。
誰に?
濡れた布の匂いが
まだ鼻の奥に残っている。
腹の中に戻されたみたいだ。
押し込まれて、丸められて、
外へ出る前の形に戻される。
親父のイチモツの奥で
ドロドロになった気がする。
町は柔らかい。
柔らかくて、たいぶ沈む。
踏みしめるたび、
ほとんど自分が消える。
俺は消えていない。
ちゃんといる。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)