船の名前/岡部淳太郎
われわれは行く
海の道をつま先でなぞって
名も知らぬ船に乗って
われわれは行く
炎と水の間で
われわれの生は簡潔に揺さぶられる
誰も
海について本当のことを知らない
われわれは泳ぐ
海の喉を指の腹でかきわけ
名も知らぬ船に乗って
われわれは泳ぐ
息継ぎの合間で
われわれの歌はほんの一瞬とぎれる
誰も
歌に関する本当の意味を知らない
帰る道を忘れた魚が
波の中でひそかに囁いている
帰る場所にたどりついた砂が
波の端でひそかに瞑想している
帰る道を探して波は
遠いどこかで荒れくるっている
われわれは滑る
海の肌を這うように撫でて
名も知ら
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