脂喰坊主と十人の詩人/AB(なかほど)
 
声がする。
 聞こえる。
 けれども僕は、振り返らない。
 熊が山を降りてゆく。
 呼ばれたわけでもないのに、
 「呼ばれたのは、君じゃないのか」
 と、蹲る僕自身に 言ってみる。

 ギルー
 ギルー

 僕はもう、脂を喰らう者ではない。
 キジムナーの髪の赤さも、今は見えない。

 ギルー
 ギルー

 僕はもう、誰の名前も呼べないのだ。
 アンダクェーとキジムナーは
 遠い山原の、霞のなかに消えたのだ。


  

   
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