河童伝・第六話「見返す水」/板谷みきょう
その年、川は何事もなかったかのように、穏やかでございました。
氾濫もしない。渇きもしない。
人の都合に、ちょうどよい顔をして流れていたのです。
村人たちは、胸をなで下ろしました。
……もう、大丈夫だ。
けれど、安心は、気づかぬうちに目を鈍らせます。
川辺に立つと、水面は必ず、人の顔を映しました。
老いも若きも、泣き顔も笑い顔も。
誰一人として、水の向こうを見ようとはしませんでした。
あの子だけが、違いました。
あの子は、水を覗くとき、決して自分の顔を探さなかった。
映らぬものを見るように、
そこに“映っていない理由”を、静かに待ってい
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(2)