河童伝・第一話「河童三郎譚」/板谷みきょう
と申します。
川の恵みを当たり前と思い、怖れを忘れ、名もないものを名もなく奪った。
それが、皿の割れ目だと。
三郎は言いました。
「川を鎮める代わりに、俺が川を出る。」
驚く村人を前に、三郎は一つ、奇妙な頼みを残します。
「俺を、河童として語るな。」
その翌朝、川は静まり返りました。
三郎の姿は消え、川底にあったはずの深みは埋まり、ぬらくら川は、ただの川になったのでございます。
やがて人々は言いました。
「河童は、神さまになった。」
「三郎は、星になった。」
そう語るほうが、都合が良かったのです。
けれど
川岸には今も、割れた皿の欠片が一枚、土に半分埋まったまま、残っております。
それが何の皿で、誰のもので、何を満たしていたのか。
それを、知ろうとする者は、もう村にはおりませんでした。
この話は、ここまででございます。
ただし
川が静かになった理由を、誰も本当には、確かめていないのでございます。
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