桃源郷/りつ
 
いつだって
逃げ出したいのは
空の彼方
まぼろしの国

そこに住む住人は
みな穏やかで
過去を問わない
未来も尋ねない
お元気ですか
から始まる会話は
今日あった細やかなことを
音楽のように
話す

ベランダに蜘蛛の巣が張って
あまりに美しいので
掃除をせずにそのままにしてあること
さざんかのはなびらが
風に散って
なぜか哀しいと思うこと
タルトタタンが上手に焼けたので
紅茶は特別にダージリンにしたこと

たわいのない
誰も傷つけないことを
優しい声で話すお茶会が
午後の暖かな小春日和に
ゆったりと開かれる

そんな桃源郷を夢見ては
現実の悪意に
いつも傷ついている
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