湯屋 ?/月乃 猫
を思い出す華奢な背に
絹の音をさせて 衣をぬぎおとし
人目も気にせぬ
無邪気な子さながら、
白濁の湯に 音もたてずに入っていく
こちらでは、
鎧の音をたて
どこからかやってきた
武者らしきものも
着ている甲冑を大仰に脱ぎ捨てると
湯にいる者など お構いなしの
ざぶんと 湯に波をたて、
身体は、刀傷だらけて
血の匂いを漂わせる
湯浴びは、誰も寡黙で
何かを想うその姿に
口をひらくものもいない
苦しみと
忘れたいことがあればなおさら
この湯に入りにくるのか
熱い湯に極楽の救いをもとめる
そのものたちは、
ひと時の 甘露の湯の恵みをもとめ
さまよう森の 住人達
ゆめゆめ 命あるものならば、
この湯にやって来ようとは
想いませぬように
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