紫陽花と秋桜の話(修正版)/板谷みきょう
紫陽花は、雨の季節に、静かに生まれました。
ひと粒ひと粒、雨のしずくを、その葉と花びらに受けるたびに、紫陽花は、まるで涙でできた水のお城のように、透きとおって光りました。
ある、ひっそりとした夕暮れのことです。
丘の向こうから、細い風が、ふわりと、やってきました。風は、どこか遠い、甘い匂いを連れていて、紫陽花の心をそっと揺らしました。
風は、紫陽花の大きな葉の間を滑りながら、優しく囁きました。
「あの丘にはね、秋になると、細い花たちが、みんなで楽しそうに踊るんだよ。」
「その中でも、一輪だけ、お日さまの明かりを抱きしめているような、温かい花が咲くのさ。秋桜という
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